日本の伝統食の良さを世界に広めたい。難しい市場に挑戦する新進気鋭の輸出商社|Japonte

2025年3月28日(金)

日本の伝統食の良さを世界に広めたい。難しい市場に挑戦する新進気鋭の輸出商社|Japonte

日本の伝統食を世の中に広めるため、2017年に創業されたJaponteは、EU、アメリカなどの欧米を中心に、米・味噌・納豆などの輸出を行っています。日本との物理的な距離が遠く、輸出に関する規制も厳しい欧米市場にあえてチャレンジするのはなぜか。Japonteの代表取締役社長である江口典孝さんに、創業の経緯やEUへの輸出の難しさ、苦労したことなどを伺いました。

インタビューさせていただいた方

江口典孝

株式会社Japonte

代表取締役社長
江口典孝さん

1994年、ドイツの総合化学メーカーに入社。幅広い職務を経験する中で築いた西欧・東欧の商社とのネットワークを活かし、2017年にJaponteを設立。伝統食材の海外輸出展開のほか、販路開拓支援や展示会などのプロモーション支援を行っている。

株式会社Japonte について

業種
商社
品目
コメ・コメ加工品・青果物・水産物・茶・調味料・酒類・麺製品・その他 (農林水産物・食品に限る)

海外でも日本と同じ和食が食べられるようにとの思いから創業

Q.GFPに登録した時期と、当時の課題感について教えてください。

江口典孝さん

GFPに登録したのは、「日本の良き食文化を世の中に広める」というミッションのもとで創業して間もない頃です。当時すでにヨーロッパの市場向けに営業活動を始めており、日本の伝統的な食文化を表現できる生産者や商品を探していました。GFPには当時から現在に至るまで、国内生産者とのマッチングの場を提供いただいています。

Q.創業の経緯、きっかけを詳しく教えてください。

江口典孝さん

前職での経験を通じて、日本食の美味しさや栄養バランスの良さなどをもっと海外に発信したいと思ったのがきっかけです。前職はドイツに本拠を置く総合化学メーカーの日本法人に勤めていました。仕事柄ドイツには毎年行く機会があり、2〜3週間ほど滞在することも多かったのですが、当時は現地で和食を食べたいと思ってもなかなか日本人の目線で満足できるお店がありませんでした。握り寿司を頼むとおにぎりが出てくる、といった和食レストランも多かったんです。

ケルン
ドイツ・ケルンで行われた食品業界最大級の見本市「ANUGA」に参加した際の記念写真。10年前と比べると、現地でも高いクオリティの和食レストランが増えてきているそう。

2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、和食そのものへの認知度や注目度は上がりました。しかし、海外ではそのような少しすれ違った和食のイメージが定着しつつあったのも事実です。せっかく日本の食文化が広がりを見せているのであれば、海外でも日本で食べられるものと同じものを味わってほしい。そんな思いからJaponteを創業しました。

Q.GFPはどのように活用されていますか?

江口典孝さん

現在は主にヨーロッパおよびアメリカの市場ニーズにマッチするであろう生産者や商品とのマッチングにGFPを活用しています。欧米は物理的に距離が遠いだけでなく、どんどん新しい規制が設けられる傾向にもあり、日本の商社・生産者にとっては海外の中でも難易度の高い市場。その市場に合致するものを提供できる、あるいは必要に応じて開発できる生産者の方と出会える機会は貴重です。例えば、EUの基準を満たした非遺伝子組み替え大豆を管理している納豆メーカーとの出会いもGFPのサポートによるものでした。

現地での情報収集を欠かさず、EUの厳しい規制にも対応

Q.納豆メーカーとのマッチングについて詳しく教えてください。

江口典孝さん

元々は、EUのバイヤーから「美味しい納豆を紹介してほしい」というリクエストがあって始まったプロジェクトでした。というのも、EUでは動物由来原料の輸入・流通*に厳しい規制がかかっているため、認定された製造・設備の原料でなければ輸入できず、EUで売られている納豆は、タレを外してしまっているか、タレの原料からかつお節を除いている商品がほとんどなんです。

かつお節からとったダシがなければ、日本で食べられる納豆とは味わいが違ってしまいます。そのため、味のクオリティを維持しつつ、国内向けに使用しているものとは別に、EUの基準に合わせたタレの開発が必要という難しいオーダーでした。しかし、GFPを通じてEUへの進出を試みている納豆メーカーとのマッチングが叶ったことで、EUに認定されている国内原料を活用したタレの開発に関わらせていただくことができました。

納豆 in フィンランド
フィンランドのスーパーに並ぶ、かつお節原料を使用したタレ付属の納豆。GFPを通じてメーカーの太子食品工業とマッチングし、協働でタレの開発や包装材料の選定を行った。
 

*動物由来原料の輸入・流通

 

フランス、ドイツ、イタリアなどのEU圏では、食品を動物性/植物性で大きく二分しています。動物性原材料を含む食品については輸入・流通に厳格な規制を課しており、畜産物の肉、乳、卵、魚介類などに加え、ハチミツ・ロイヤルゼリーやゼラチン・コラーゲンなども適用の対象になります。

Q.ヨーロッパへの輸出に関して、原料規制のほかに障壁となるような規制はありますか。

江口典孝さん

食品に関しては動物由来原料のほかにもさまざまな規制が課せられています。納豆の例で言うと、遺伝子組み換え大豆の使用に関してEUは世界でもトップクラスに厳しいんです。今回は初めからEUの基準をもとに大豆を調達されているメーカーとマッチングできましたので、そこが大きな障壁とはなりませんでしたが、国内向けの商品をそのまま持っていけない理由の一つです。

また、食品に接する包装材料も厳しくチェックされます。納豆も実は4種類ほどの包装材料と接触しており、それらがすべて規制に適合していることを示す適合書を用意しなければなりません。EUは戦略として世界に先立つルール作りを積極的に行っているため、改正への対応が都度求められることも多いです。それらの煩雑な手続きに細やかな対応ができるのが、私たちの強みだと思っています。

Q.輸出先の規制やニーズを把握するためにどのような取り組みをされていますか。

江口典孝さん

現地での情報収集が基本です。食品業界の展示会に足を運んだり、国が主導するプロジェクトに参加したりなど、常に新しい情報を得るように心がけています。例えば、2021年には農林水産省の「東欧物流調査事業」に関わり、ポーランドへの輸出実証調査を行いました。

実証調査に協力していただける生産者の方をGFPサイトで募集し、酒類を中心に現地のニーズや価格設定などを探る試みです。食品の国際見本市「ANUGA」で大まかな評価を把握した後、現地小売・外食店28店舗にサンプル提供と売り込みを実施しました。サンプルは日本酒、芋焼酎、麦焼酎、泡盛の原酒および30度などです。この中で最も評判が良かったのは、意外にも泡盛の原酒。ポーランドの蒸留酒文化との親和性が高かったんです。

ワルシャワ
ポーランド・ワルシャワで行われた泡盛キックオフイベント(試飲会)。東欧物流調査事業の結果を受けて、沖縄国税事務所はポーランドにおける泡盛の普及を推進している。

Q.輸出実証調査を通じて、どのようなことがわかりましたか。

江口典孝さん

ポーランド市場は、20〜30代の若い世代に活力があるのが特徴です。経済的な規模感ではフランス、ドイツ、アメリカといった大国にはまだ及びませんが、EU圏の次世代を担うだけのポテンシャルは備えています。文化的に親日国なのも日本の輸出にとっては追い風。和食への関心も高く、和食を提供しているレストランは国内に400件ほどあります。こうした情報は現地を訪れてみなければ、肌感としてわかりませんね。

フットワークの軽さを活かし、難しい市場にも果敢に挑戦

Q.今後の輸出事業における目標を教えてください。

江口典孝さん

短期的には、欧米との関係性をより強固なものにしていきたいです。さらにその先としては、インドの市場を見据えています。理由は、それらの市場はどこも日本から物理的に遠く、規制も厳しくて難しいからです。私たちはまだまだ業界としては新参者。だからこそ、皆さんが手をつけにくいところにチャレンジしていくのが、私たちの価値だと考えています。
しかし、ミッションはあくまで「日本の良き食文化を世の中に広める」こと。創業時にさまざまな可能性を模索した結果、卸売市場を通じたアプローチを行っていますが、今後も輸出事業だけに限定する必要はないと思っています。自社商品の開発やECサイトを活用した小売、海外の方向けのワークショップなど、ミッションの実現に向けてどんどん手段を増やしていきたいですね。

Q.目標達成に向けて、GFPに期待されていることはありますか。

江口典孝さん

GFPに登録されている事業者が1万者を超え、「人を集める」という意味ではすでに一大プラットフォームになっています。事業者同士のチーム作りに関してもすでにまとまった成果が出ているのではないでしょうか。これからは次のフェーズとして、チームを活発化するための情報提供に期待しています。私はGFPのセミナーに講師として登壇する機会もあるのですが、参加者の方から「規制が複雑でわかりにくい」という悩みをよく伺います。例えば、食品添加物に関する規制の一覧表などがあれば、もっと輸出の間口が広がると思います。

Q.これから輸出を始められる事業者・生産者の方にメッセージをお願いします。

江口典孝さん

輸出を成功させるためには規制への対応、ニーズの把握、商品の開発・改良などたくさんのハードルを乗り越えなければなりません。しかし、それを達成したときのリターンもまた大きいもの。小規模な事業者・生産者には、大手企業にはないスピードと柔軟性を持って市場を開拓していけるという強みがあります。GFPで輸出の可能性を探ってみませんか。