“ラーメンブーム”にも後押しされ、高菜漬けの輸出好調 GFP展示会や講演会で「顔の見える」機会づくりも|大平食品
2025年3月28日(金)

大正10年の創業以来、長崎県島原半島を拠点に、地域に根付いた漬物製造を行っている大平食品株式会社。2019年頃から高菜漬けというユニークな食品を商材に、海外販路を拡大されています。 たとえその地域ではまだ馴染みのない商材でも、「一番乗り」すれば勝機はある――。老舗の名を背負いつつチャレンジし続ける同社に、海外展開のハードルを下げ、一歩を踏み出すための考え方を伺いました。
インタビューさせていただいた方

大平食品株式会社
代表取締役
大平國泰さん
大正10年創業の同社3代目社長。長崎県の老舗漬物企業として全国的な認知を得ながらも、長崎市内への直営売店のオープン、海外事業展開開始など、「攻め」の事業拡大に取り組んでいる。
記事の目次
情報収集のチャネルのひとつとして、GFPに登録
Q.輸出業を始められたきっかけを教えてください。

大平國泰さん
弊社が輸出業を考え始めたのは、2018~2019年頃です。福岡商工会議所が主催した展示会で、JETRO職員の方とお話させていただいたことがきっかけでした。弊社には海外輸出の知見は何もなかったのですが、その担当の方がとても熱心で、仲介業者など輸出事業を始めるまでのイロハを丁寧に教えてくださいました。話を聞くうちに、このやり方ならできそうだし、当社も少しずつ取り組んでみようかなと。国内の経済成長率が下がっているという背景もあり、海外市場に可能性を感じていたことなども当時の考えとしてありました。

Q.GFPはどのようなきっかけで登録されたのでしょうか?

大平國泰さん
JETROをきっかけに輸出業の準備を進めていく中で、情報取得手段のひとつとして農林水産省のGFPを薦められました。GFPは登録の手続きも簡単ですし、年会費も不要です。当時、海外輸出に関してはまったくの素人でしたので、多方面からさまざまなアドバイスや支援を受けることが必要と考えて、登録しました。
Q.GFPに登録されて良かった点を教えてください。

大平國泰さん
個人的に特に良かったと考えているのは、GFP事務局の方と顔を合わせて話をさせていただく機会を作れる点です。弊社に来ていただいたり、GFPの講演会や展示会などに伺ったりすると、だんだんこちらのことを理解してもらえます。それと同時に、商品をどう売り込めばいいか、対象地域をどう考えたらいいかなど1回や2回では伝えきれない細かな相談もできるようになりました。
また、他社や他業界のことを知ることができる、という利点もあると思います。1年ほど前に長崎で九州の業者を対象にしたGFPの講演会があり、そこで弊社を含めた数社でパネルディスカッションを行いました。いろんな業種業態の方の輸出の取り組み方や困りごとなどを直に伺うことができて、非常に勉強になりました。

商談はオンラインで、きっかけ作りは展示会で
Q.海外とのやりとりはどのように行われていますか?

大平國泰さん
弊社の場合、直接海外のバイヤーと交渉をするというのが難しいので、輸出商社や仲介業者に間に入ってもらっています。「海外企業と直接取引をした方が相手企業のことがわかるし、ビジネスが大きく飛躍する」という考え方もありますが、理想と現実ではギャップがあるものです。
国内の商社さんに間に入っていただければ、もちろんマージンはかかりますが、国内取引と同じような感覚で決済まで手続きできるので、大変助かっています。
Q.商談の場は、どのように設定されていますか?

大平國泰さん
輸出業を始めた直後にコロナ禍となり、商談の場だった展示会がほとんどなくなってしまったことがありました。それを機に、オンラインに移行したんですね。
以前は各国バイヤーと事前にアポイントを取って、福岡や東京、千葉の幕張などで行われる展示会で商談するという形をとっていたんですが、弊社は長崎県にありますので、移動時間や費用がバカにならない。
それがオンラインだと会社にいながらにして、1日に4社、5社とも商談ができるわけです。その際は事前に弊社から食品サンプルを先方にお送りしておいて、お互いに画面越しに商品を手に取りながら話すというスタイルをとっています。
もちろん、そのアポイントにGFPやJETROを活用することもあります。また、さまざまな展示会の事務局から商談会の案内をもらうなど、きっかけをたくさん作っていただいています。
いろんな団体の人と話をさせていただいて、多方面から支援を受けることで、多くの機会を得られていると思います。

輸出事業を始めなければ気づけなかった、予想外の需要
Q.日本の漬物を海外輸出するというのは意外性が感じられますが、具体的にはどのような商品が、主にどんな地域で受け入れられているのでしょうか?

大平國泰さん
現在、弊社の輸出売り上げの8割以上を占める主力商品となっているのが「高菜漬け」です。その理由はいくつかありまして、まず賞味期期限の問題がひとつ。海外バイヤーの多くが最初に気にされる点が、賞味期限の問題です。輸送期間のこともあり、みなさん、商品には賞味期限が最低1年は欲しいとおっしゃいます。弊社の国内向けの主力商品は「めし泥棒」ですが、要冷蔵で賞味期限が短いため、その点で弾かれてしまうことが多いんですよね。
「高菜漬け」が人気のもうひとつの面白い理由が、豚骨ラーメンに欠かせないから、というのもあります。今、海外で豚骨ラーメンブームが続いているみたいなんです。そういった需要は予想外でしたが、なかなか国内の常識だけでは考えつかないところに商機があるのだなと、大変勉強になりました。
現在は、アメリカの西海岸やオーストラリアのシドニー、東南アジア圏で人気です。アジア圏は高菜漬けと近しい食べ物もあったりするのである程度予測はついたんですが、アメリカやオーストラリアは意外でしたね。

Q.輸出を始められてからの意外な反響は他にもありましたか?

大平國泰さん
輸出事業を始めた当時は、「外国の人に日本の漬物なんてわかるのかな?」と思っていましたし、今でも地域によっては「高菜漬けって何だ?」と聞かれることもよくあります。わからないということは売れないかもしれないと思う反面、まだ地域にその商品自体が持ち込まれていないということですから、一番手になれるかもしれませんよね。何でも一番手になれば、ある程度ステータスが築けると思うんです。
たとえば以前ベトナムのバイヤーに高菜漬けを案内したときも、弊社内では「とても売れないだろうね……」と特に期待していなかったんです。でも予想外に、リピートをしていただいている。現地のバイヤーに聞くと、今ベトナムは成長期で、若い人の人口比率がとても多い。その若い方々がラーメンをはじめ、さまざまな料理に高菜漬けを合わせて楽しんでくれているみたいなんです。勢いがある国の若い人たちが高菜の漬物に慣れ親しんでくれたら、この先もずっと食べ続けてもらえるかもしれない。新たな市場となるかもしれない。そんな未来の可能性を感じられるのが、海外展開の面白さでもあると思います。
Q.海外事業にあたって、商品に対して工夫されたことはありますか?

大平國泰さん
輸出のためには国ごとに異なる認証が必要で、場合によっては商品自体の規格を合わせていく必要があります。たとえばEU圏だと動物系の原材料が入った商品の輸入は厳しく制限されています。そのため調味料の中で動物系が入っているものを全部差し替えるという対応をしました。
具体的にいうとアミノ酸等調味料ですね。長年、それを卸してくれている企業の方に相談したら、1年以上かかって動物系原材料が入っていない調味料を開発してくれたんですよ。使ってみたら、これまでの商品の味と遜色がなかった。そこで国内の商品も全部それに置き換えたという逆転現象も起きました。
以前から国内のお客様から「なんで漬物に動物系の原材料が入っているんだ?」という問い合わせもあったものですから、それは思わぬフィードバックとなったと思います。

ナーバスにならず、やってみることで新たな可能性が見えてくる
Q.事業における次の展開を教えてください。

大平國泰さん
中長期的な目標ですけれども、現在弊社の売り上げに対して輸出が占める割合は1%ちょっとなんですね。それを近い将来3~5%くらいまで持っていけたらいいなと考えています。国内の需要が頭打ちとも言える状況ですが、海外にはまだまだ大きな可能性があると考えています。
Q.これから輸出を始められる生産者の方にメッセージをお願いします。

大平國泰さん
各国の認証書類にあたっては、「あの国は〇〇をとっておかなければいけいない」「あそこは〇〇がないと」と身構えてしまうと思うのですが、日本の衛生基準をクリアしておけば、ある程度信頼はしてもらえるようです。もちろん国によって+αが必要なところはありますが、“メイド・イン・ジャパン”ということが、すでにひとつの安心材料になっているようなので、そこまで海外認証についてナーバスになる必要もないのかなと思っています。またパッケージをわざわざその国の言葉で作り直すなどローカライズせずに、日本語の表記のままとした方が売上につながることもあるようです。そういう肌感というのは、やっぱりやってみないとわからない。
新しく始める企業の方には、事前情報はいろいろあると思いますが、そんなに構えたり、心配したりすることはないよということをお伝えできればと思います。