GFPのオンライン商談会で中国のバイヤーとマッチング。独占販売で初動から6,000件の受注に|玉谷製麺所
2025年3月28日(金)

昭和24年に創業し、山形の霊峰・月山の麓でそば・うどんなどの製造・販売を行っている玉谷製麺所。麺類の加工技術を応用し、輸出先のニーズに沿う「アートパスタ」を開発。GFPを通じて中国のバイヤーと直接商談し、大口契約を実現しています。玉谷製麺所の専務取締役である玉谷貴子さんに、GFPに登録した経緯や、輸出を始めたきっかけ、輸出に際して苦労したことなどを伺いました。
インタビューさせていただいた方

有限会社玉谷製麺所
専務取締役
玉谷貴子さん
企画開発・レシピ開発・デザインなどを担当。デザイナーとして、2012年に「月山黒米パスタ」で、めん業界では初のGOOD DESIGN賞を受賞。フードアナリスト一級の資格を持ち、日本の食文化を広く伝える活動を行っている。
東日本大震災をきっかけに、海外へ本格的に展開
Q.GFPに登録した時期と、当時の課題感について教えてください。

玉谷貴子さん
国産原料を使った取り組みをしていくなかで、2018年に農林水産省が主催している「FOOD ACTION NIPPON」アワードを受賞しました。同アワードは主に「国産農林水産物の消費拡大に寄与する産品」を対象としており、当社としては初めから日本の市場だけではなく、海外展開も見据えていました。そのような折、農林水産省からのメールマガジンでGFPのことを知り、2019年に登録しました。
Q.どうして海外展開を目指したのでしょうか。

玉谷貴子さん
発端は、2011年の東日本大震災です。当時、福島で起こった事故の影響で、山形県の食材が「東北のものだから」という理由で国内の市場から敬遠される事態に陥ってしまいました。
そのネガティブなイメージを払拭し、海外の方からも「この東北で作ったものが欲しい」と言っていただけるような新たな食作りを目指して、輸出事業に踏み切りました。
しかし、当時は他社商品との違いが見えにくいそば・うどんなどのオーソドックスな麺類しか提供しておらず、輸出先で競合と張り合えるような目玉商品がありませんでした。そこで、当社の得意としている麺類の加工技術を活かして「アートパスタ」を開発。パスタの本場、イタリアにもまだないユニークな商品で、現在でも輸出における人気商品になっています。
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Q.GFPはどのように活用されていますか?

玉谷貴子さん
海外現地に必要とされていることや商品のニーズなどを、リアルタイムに知ることができるので、GFPからのメールは日々チェックしています。今まさにバイヤーが必要としているタイミングで商談を持ちかけられるというのは大きなメリット。海外展開における成長の助けになっています。
また、オンライン商談会などを通じて、国内の商社とのマッチングもさせていただくことで、当社の商品を知ってもらうキッカケ作りにも。一番大きかったのが、国内の商社を介して中国現地のバイヤーと商談ができ、成約に結びついたことです。そのおかげで、中国への輸出企業登録もできました。
GFPのサポートで、距離や言語の壁を越えて商談を実現
Q.中国現地のバイヤーとの商談について詳しく教えてください。

玉谷貴子さん
2020年にオンラインで商談しました。当時、中国現地のバイヤーが日本の乾物を求めており、パスタも乾物ということで商談を申し込んだんです。GFPにはマッチングやオンライン会場の手配といった様々なサポートをしていただき、距離の壁を越えて話ができました。
先方には「世界でここ(玉谷製麺所)でしか創れない美しいパスタが、中国の高級スーパーの棚に並ぶと喜ばれそうであり、まだ中国未進出であるため、独占的に販売できる」として喜ばれました。最初の成約で、受注数は一度に6,000袋。工場をフル稼働して納品しましたが、人口が多い国は規模が違うなと感じました。
Q.中国への輸出に関して苦労されたことはありましたか。

玉谷貴子さん
輸出企業登録に際して登録番号を取得しなければいけないのですが、サイトへのアクセスが集中して何度もエラーが発生したり、提出書類が多かったりと事務作業で苦戦しました。いざ輸出先が決まったら、根気強く取り組む必要があります。

また、中国の事例ではないのですが、国際認証が求められることも多いです。麺類ですとイスラム教圏の販売には「ハラール(HALAL)認証」*は最低限取得してくださいと言われます。国際認証がなければそもそも商談にならず、「まず取ってから話しましょう」と。そのためには工場や製粉所の管理体制を整えなければならないので、苦労しましたね。
*ハラール(HALAL)認証
イスラム法上で食べることが許されている食材、料理であることをハラール認証基準に基づいて証明する制度。国内では日本ハラール協会が主要各国の認証基準を取り入れた「JHAS」をもとに認証監査を行っています。認証監査では原材料、製造工程、製品品質などを審査し、「豚やアルコールを含む食品・調味料ではないこと」が求められます。
Q.海外のバイヤーと直接商談したことで得られた気づきなどはありましたか。

玉谷貴子さん
現地の知られざるニーズを掘り起こせるというのは大きなメリットだと思います。生産者が第三者を介さずに直接ニーズを聞くことで、より輸出先のニーズに合った商品の開発が可能です。当社のアートパスタも、最初の商品化は雪の結晶の形をした「雪結晶パスタ」だったのですが、お客さまから「冬の次は春が欲しい」とリクエストをいただいて「サクラパスタ」を開発したところ、それがヒット商品になりました。

また、現地のニーズを把握しておくことで、国内の商社とのマッチングもスムーズになります。商社と協力しても、相手に任せきりではなかなか海外市場までは結びつかないんです。生産者の側であらかじめ輸出先を見つける努力をして、そこから協力企業を募るというのが意外とスムーズな方法だと思っています。
Q.輸出に関する商談で気をつけていることはありますか。

玉谷貴子さん
輸出事業ではパスタが人気商品ですが、当社の主力商品はそばやうどんです。アートパスタというのは、当社にとっていわば“飛び道具”のようなもの。ここでしか作れないものを作っている、そういう製麺所が日本の山形にあるということを知ってもらうための手段の一つなんです。アートパスタをきっかけに商談することになったバイヤーの中には、そば・うどんが欲しい方もいるため、まず会社概要をお伝えしてから何が目的で商談をするのかを聞いて話を進めるようにしています。
アートパスタを入り口にして、そば・うどんや庄内地方の伝承麺「麦切り」にも興味を持っていただきたい、そのニーズは逃さないようにしたいと思います。

「山奥の会社でもグローバルに活躍できる」ことが社員の誇りに
Q.GFPへの登録によって社内(スタッフの方の意識など)に変化はありましたか。周囲からの声や反応について、印象的なエピソードがあれば教えてください。

玉谷貴子さん
自社で作っているものが海外で販売されていることが社員のモチベーションアップにつながり、「さらに世界から認められる食作りをしていきます」との声が上がっています。サクラパスタについて、海外の展示会でお客さまが「かわいい」と日本語で褒めてくださったことがあり、そういったエピソードを話すと若い社員が目を輝かせて聞いてくれるんです。
海外展開しているおかげで、国内における商品の付加価値向上に加え、「こんな山奥の会社でもグローバルに活躍できる企業である」と社員が誇りをもてるようなロイヤリティにつながっています。

Q.今後の輸出事業における目標を教えてください。

玉谷貴子さん
現在、ブラジルへの輸出にチャレンジしています。近年、JETRO(日本貿易振興機構)後援でブラジルに東北の食材をアピールする取り組みが始まりました。当社の麺もそこに加わりましたので、国際認証などの準備を進めています。
また、南アフリカとの商談も進行中です。現地のバイヤーが当社のパスタをご覧になって、「ぜひとも商談したい」と言ってくださったので、詳細をご相談したいと考えています。
Q.目標達成に向けて、GFPに期待されていることはありますか。

玉谷貴子さん
小さな会社でも参戦できる「場」作りをお願いしたいと思います。一緒に頑張っている中小企業を一同に集めた「GFP 超会議」も例年の楽しみです。輸出に取り組んでいる中小企業が集まって、それぞれの工夫を共有すれば、日本全体の輸出が盛り上がるのではないでしょうか。
Q.これから輸出を始められる生産者の方にメッセージをお願いします。

玉谷貴子さん
輸出は海外のバイヤーに知ってもらうことが最初の一歩。少しでも可能性があると感じたら、ぜひオンライン商談などに参加してもらいたいです。GFPさんのサポートもあるので、安心して参加できると思います。
日本の美味しさを、ぜひ海外へ知ってもらえると良いですね。